IMFと戦い国民・国家を守ったマハティールに学ぶべし! ①政治の季節を迎えたマレーシアとマレーシア政治概説

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その②形骸化する民主主義:選挙で選ばれぬ人たちが政治を動かしている
その③選挙で選ばれぬ新自由主義者たちによって売りに出される大阪:大前研一と竹中平蔵の影
その④【地下鉄利権】関西私鉄幹部が大量に大阪市参与に就任していたことが判明。裏で進められる公共財の解体と簒奪。/一刻も早く橋下リコール運動を開始すべし。
その⑤【大阪地下鉄民営化利権続報】在阪マスコミは関西私鉄の事実上支配下にある!マスコミが橋下維新・地下鉄「民営化」問題を報じない理由

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今回はちょっと趣を変えて、マレーシアのマハティール首相(当時)がアジア通貨危機にどのように対処したのかということを、マレーシア情勢とともに書きたいと思う。なぜなら骨抜きにされてしまった現在の日本人がここから学ぶべきことが多いと感じるからだ。
本稿はマレーシア事情にあまり詳しくない方にも容易にご理解いただけるよう、3回にわけて書くことにする。最初の記事(今回の記事)では、最近発生した大規模反政府デモとマレーシア政治の概略について、2回目の記事では本稿のメイントピックであるマハティールとIMFとの対決について、3回目の記事では野党指導者アンワル・イブラヒムについて述べたい。
今回の記事の特に後半部は少々退屈なものになると思うが、以降の記事を読む上での予備知識として有用であると思うので、ご了承いただきたい。

[政治の季節を迎えたマレーシア]

治安部隊が築いたバリケードを挟み対峙するデモ隊

総選挙が今年か来年に予定されているマレーシアで4月28日、マレーシア主要各都市及び海外20カ国あまりで、”Bersih”「クリーン」と題した大規模反政府集会が一斉に催された。政治改革・選挙制度改革を求めたものとして各国メディアが報じたが、オーストラリア企業Lynasがマレーシア・パハン州に建設中(現在建設が中断)のレアアース精錬工場が精錬の際に放射性物質を出すという問題が、福島原発事故を経て大問題化し、それに対する抗議も今回のデモの大きなテーマの一つとなっている。前回2008年の総選挙で大躍進した野党各党も今回のデモを全面的に支援している。

デモ隊を排除する放水車

首都クアラルンプールでの集会には10万人以上が参加した。参加者は黄色のシャツに身を包み、当初は和やかなムードで行われていたが、治安部隊と衝突し、治安部隊側は催涙弾を発砲、放水車が導入され、多数の逮捕者・負傷者が出た。デモ隊の中に政府側が忍び込ませたと思われる多数の活動家たちがいざこざを起こし、そこに警官隊が襲い掛かるということが行われたと参加者サイドから多数の報告が出て、撮影された写真がフェイスブックで出回っている。

催涙弾が発砲され退くデモ参加者

取材していたメディアの記者も警官隊に暴行を加えられた結果、中華系の新聞を中心にこの問題を大き報じ、却って政府側にはマイナスに作用している。以前の記事にも書いたが、マレーシアでは新聞・テレビというメディアはその殆どが政府系で、そのためインターネット・メディアが都市部で飛躍的に伸びていたが、ここにきて新聞も政府の統制が徐々に及ばなくなってきていることが伺える。
変化を求める機運が年々高まってきているのは事実で、今後の展開次第ではマレーシアで政権交代が起こってもおかしくない情勢になってきたように思える。

催涙弾を投げ返すデモ参加者

しかし、私個人としては今回のデモに対し、今ひとつ釈然としない印象を持っている。それは現在のナジブ首相が政権運営において大きな失政があるとは言いがたいからだ。経済も好調であり、なぜ今変らなければならないのかの積極的理由が実はあまり見つけにくい状況である。

投げ返された治安部隊

この問題は現在調べている最中で、3回目の記事で少し触れることになると思うが、野党連合のカリスマ指導者であるアンワル・イブラヒム元副首相という政治家をどう評価するのかという問題に大きく関わっている。現在進行形の事象に分析を加えるのは非常に難しいことである。

[マレーシアの政治概略]

マレーシアは調査によってばらつきはあるが、概ねマレー系約5割、中華系3割弱、インド系約1割の他にオランアスリと呼ばれる先住民系や、タイ系住民、ボルネオ島のサバ州・サラワク州を中心にキリスト教系の先住民が暮らす多民族国家である。マレー系国民は全てイスラム教徒で、国教はイスラム教であるが、世俗主義でその他の人々には信教の自由が認められている。そのため、ボルネオ島先住民を中心に多数のキリスト教徒(カトリック及び宗派が非常に多いプロテスタント)がおり、中華系を中心に仏教徒・道教徒、インド系を中心にヒンズー教徒(南インド系が中心)や少数ながらシーク教徒がいる。またマレー系以外でもイスラム教に改宗した人たちも多い。

マレーシアの地図

1957年にマラヤ連邦が独立し、その後63年にシンガポール・英領北ボルネオ・英領サラワクが加わり、マレーシアが成立。しかし、政治路線の対立から65年にシンガポールがマレーシアから事実上追い出される形で、リー・クアンユーに率いられ分離・独立している。以後も民族間の軋轢は続き、69年の総選挙直後にマレーシア史上最悪のマレー系と中華系の民族衝突事件が起こっている。
民族問題はセンシティブな問題とされ、公の場で口にすることがタブー視されている。民族融和という課題は常にマレーシアにつきまとう問題である。政党は主に政策別ではなく民族別に構成されている。ボルネオ島のサバ州・サラワク州では民族間の軋轢は小さいが、半島部では民族間の相互不信の傾向が強く、軋轢が表面化するのを避けるために、基本的に他の民族の事柄には介入しないというのが通常のスタイルである。衝突事件を経た後のマレーシア人のひとつの知恵であると言える。
マレーシアで採用されている選挙制度は小選挙区制であるが、極めて政党の多い国である。それはマレーシアが多民族国家であることと、歴史的な経緯が関連している。政策別というよりは民族別に政党が作られ、主にこれらの多くの政党が連合してバリサン・ナショナル(BN、国民戦線)というプラットフォームを形成し、独立以来名称は変っているがほぼ同じ枠組みで政権を担ってきている。その中核を占めるのがUMNO(統一マレー国民組織)で、その他の主要政党としてMCA(マレーシア華人協会)、MIC(マレーシア・インド系会議)、グラカン(マレーシア人民運動党)があり、他サバ州・サラワク州の多数の小政党が加わっている。これらの政党集合体が与党連合BNを形成することで、政治は事実上独占されてきたといっていい。歴代首相は常に最大与党のUMNOから選ばれてきた。
一方野党は中華系が主体のDAP (民主行動党)、UMNOから分裂したイスラム原理主義のPAS(全マレーシア・イスラム党)、そして次回の記事で述べるが、アンワル元副首相が率いるマレー系主体のPKR(人民正義党)があり、現在パカタン・ラクヤット(PR、人民同盟)というプラットフォームを築き、与党連合BNとの対決姿勢を鮮明にしている。

ナジブ・ラザク現首相

22年間君臨したマハティールが2003年に引退した後、アブドラ・バダウィを経て、現在のナジブ・ラザクへと政権がやはり同じ与党の枠組みで引き継がれている。アブドラは当初その清廉なイメージで絶大な人気を誇り、2004年総選挙を与党連合の大勝に導いたが、任期中には引退したマハティールがアブドラの政策に苦言を呈するなど軋轢が表面化、終盤には人気が凋落し、2008年の選挙ではそれまで与党連合が保持していた議席3分の2を割り込む、マレーシアの選挙としては大敗といえる結果となり、2009年に辞任した。
ナジブ・ラザクが首相の座に就く前は、フランスからの潜水艦購入時のスキャンダル疑惑や、それに関わったモンゴル人女性通訳とのスキャンダル疑惑、及び実際に起こったその女性の爆殺事件への関与疑惑などの噂がインターネットで盛んに流された。しかし、政権に就いたナジブは現在のところ無難に政権運営をしており、大きな失政もない状態で、マレーシア経済は好調を保っている。前任者のアブドラよりもはるかに良いというのが率直な印象だ。

デモで演説する野党指導者アンワル元副首相

野党側は与党連合の金権汚職体質を批判するために「クリーン」というスローガンを掲げ、パカタン・ラクヤット(PR、人民同盟)というプラットフォームを築いてはいるものの、野党各党の掲げる政策はバラバラで、統一性のないものである。華人系のDAP(民主行動党)はシンガポール与党の人民行動党に近い政党で、UMNOから分裂したイスラム原理主義のPAS(全マレーシア・イスラム党)との政策の隔たりは大きい。その間をアンワル・イブラヒム元副首相率いるマレー系のPKR(人民正義党)が取り持ち、選挙協力体制を整えることで、野党連合はかろうじて機能している。
しかし、野党側に好意的なインターネット・メディアが都市部を中心に普及し、2008年の総選挙で野党連合は一気に82議席を獲得、州議会選挙でも13州のうち5州を制し、大躍進した。そして上に述べたようなデモ・集会を定期的に行うことで支持を拡大している。今年か来年に行われるはずの総選挙はどうなるのか予測のつかない状態になってきたといえる。

<続編記事>
IMFと戦い国民・国家を守ったマハティールに学ぶべし!:②IMF「救済策」が明暗を分けた」(5月8日)
IMFと戦い国民・国家を守ったマハティールに学ぶべし!③:野党指導者アンワルとその「グローバル」人脈」(5月18日)

(註:マレーシアでは民族問題を扱う際、「エスニック・グループ “ethnic group”」とは言わず、「民族 “race”」という言葉を用いるのが一般的で、社会科学の用語としては違和感を持たれる方もおられると思うが、本稿もそれに従って表記している。)
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